保険金犯罪


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 1998-12-26  保険金犯罪 (2002-08-11追記)

 私には生命保険に関してイヤ〜な思い出がある。知らないうちに加入させられていたのである。保険料の支払い&保険金受取人は幸い、実の親だったんだけど。
 それだけならいい。小額なら本人の同意なしでも加入できるものなのかもしれない。「そーいうのに入るなら事前に、いや事後でもいいから言ってくれよ。自殺する時は自殺とはバレない方法でヤルから(笑)」と軽口叩いてそれまでの話である。この件が非常に不愉快な思い出となっているのは、担当の保険外交員(中年のオバチャン)が、とんでもない嘘つきだったためである。

 ある年の夏、私が帰省して実家にいた時、たまたまその保険のオバチャンがやってきて、ひょんなことから私が「もうすでに生命保険に加入している」ことが発覚した。不審に思い、本人の同意がなくても加入できるのか、健康診断書無しでもOKなのか、など思いつくまま聞いてみると、「健康診断書は学校から取り寄せた」などと言う。そんなバカな。何年も前に卒業した学生の健康診断書を第三者が学校から取り寄せるなんてできるのか? 信じがたいが仮に本当だとしたら、これは個人情報の横流しで犯罪である。疑問をぶつけると、「ご本人に取り寄せてもらって、こちらに送ってもらいました」なんて言いはじめた。おいおいおい、その「ご本人」って誰だよ(笑)。今の今まで、あんたとこの保険に加入しているということさえ知らなかったんだぜ、その「ご本人」である俺は。本人を目の前にして、よくもまあシャアシャアとそんな嘘を、と腹が立つのを通り越して呆れてしまった。
 オバチャンが帰った後、「担当者がああいう人では信用できない。契約が正式に成立しているのか、掛け金がちゃんと保険会社に振り込まれているのか、確認した方がいい」と親に進言したのだが、その後親からの連絡はない。あの生命保険契約がまともなものだったのかどうか真相は不明のままである。

−*−

 大事件というのは世の人々になにがしかの教訓をもたらす。和歌山の毒カレー事件によって、「生命保険は本人や家族の知らないうちに加入させることができる」という事実が広く知れ渡ることとなった。これはほとんどの人にとって驚愕の事実だと思う。私は上に書いたような経験をしていたため全然驚かなかったが。

 保険金目当ての犯罪は古くからあるが、日本における保険金殺人は1970年代に入った頃から急激に増え、一時のブームでは終わらず、今では殺人事件の一ジャンルをなすようになっている。すでに目新しさはないが、「金のために肉親を計画殺人!」「遊ぶ金欲しさに同僚や部下を次々に!」というのは醜聞度数が高いためか、TVのワイドショーや週刊誌にとっては今でも恰好のネタである。

 保険金殺人は、保険会社がチェック機構を整えれば大半は防止できるはずのものだ。事件が頻発するようになってもう20年以上経っている。保険会社は詐欺の被害者ではあるが、犯罪を誘発するシステムを放置していることへの道義的責任も問われるべきではないのか? 和歌山の事件を巡ってマスコミは容疑者夫婦が正式に「容疑者」になる以前から執拗な詮索・憶測・追及を繰り広げたが、保険会社側の責任を検証・追及する報道はほとんど行なわれていない。「保険評論家」による業界事情解説は何度か目にしたが。マスコミは保険会社に対して及び腰になっているように思える。そういや、容疑者の女性が勤務していた生保の会社名も伏せられたままだな。

 疑惑夫婦の逮捕から1カ月ほど経った先月19日(98年11月19日)、安田生命が容疑者夫婦を相手どって訴訟を起こすことになったと報じられた。契約時に詐欺の意図があり契約は無効であるとして、支払った保険金(約5200万円)の返還を求めるんだとか。新聞記事では「今後、被害回復に向けた保険会社側の動きが本格化しそうだ」(*)としている。
 逮捕以前から数カ月に渡って続いた疑惑報道で保険外交員のイメージはずいぶん悪化したと思う。それは大元の保険会社に対する不信感に直結しかねない。この訴訟は経済的な被害回復を求めるものというより、「この事件では保険会社は被害者なのです」と世間に向けてアピールしておこうというイメージ戦略的行動のように感じられる。
 そう感じるのは、冒頭に書いた経験によって私の中に保険外交員(≒保険会社)に対する抜き難い不信感があるためかもしれないが。

(*) 安田生命、返還訴訟へ (1998年11月20日の共同通信の配信記事)
 (参照先は佐賀新聞社の記事データベース



追記1 (2000-03-29)
 保険金返還を求める訴訟は99年6月21日、林被告と安田生命の間で和解が成立している。

林被告が保険金返還へ=安田生命と和解成立 (Kyodo News 1999-06-21)


追記2 (2002-08-11)
 語句修正:保険営業員→保険外交員

 追記1でリンクした共同の記事は現時点で削除されている。他のものも含め、毎日と読売の記事、特集ページへのリンクを追加しておく。

 保険金返還を求める提訴の件、毎日・読売の記事は共同より1日早いが保険会社の社名を伏せている。

 おや! 上の(*)でリンクした共同通信の記事(佐賀新聞の記事DB)は、今は容疑者名が伏字(**)になっている。2000年3月末に確認した時には実名を記載していたのだが。

林被告夫婦、4741万円返還で安田生命保険と和解 (99.6/22、毒物カレー事件、毎日)
林被告夫婦、保険金返還で和解 (99.6/21、毒カレー事件、読売)

保険金5200万円の返還を生保が求める (98.11/19、JamJam、毎日)
林被告夫婦に保険金返還請求 (98.11/19、毒カレー事件、読売)

和歌山ヒ素事件 生保協会長、事件踏まえ衆院特別委で陳謝 (98.12/9、JamJam、毎日)

毎日:毒物カレー事件
毎日:和歌山・ヒ素保険金詐欺事件 (JamJam、1999年3月以前の記事)
読売:毒カレー事件 1999年末までの記事




 2002-08-12  関連雑談

 自分用の備忘も兼ねて当サイト内の保険金犯罪関係の雑談にリンクしておく。

 2000-07-31 林健治被告の論告求刑公判
 2000-10-21 保険会社の責任
 2002-08-08 保険金殺人は新しくない(1)
 2002-08-11 保険金殺人は新しくない(2)



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