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2001年 7月17日

 2001-07-17(火) 

オランダ式
「シリーズ参院選(2) 雇用クライシス」の特集V明けのトーク。
ワークシェアリングは日本で可能か?

久米 宏 森永さん、まずオランダ的なものの考え方ができるかどうかですね
森永卓郎  英語でね、「割り勘でいこう」っていうのを「レッツゴーダッチ」って言うんですよ。 オランダっていうのは社会保障も雇用もみんな割り勘方式、みんなで分け合おうってことを考える国なんです。

構造改革派とか市場原理を主張する人っていうのはリストラが進んでも低生産性分野から高生産性分野にどんどん人が移っていけばいいって話をするんですけども、例えば不良債権処理にしても公共事業の圧縮にしても、まず仕事を失うのは建設業の現場の労働者なんですよね。その人達が例えば高生産性のITの技術者だとかナノテクの技術者になれるのか。なれないんですよ。実際に統計を見ても建設業を離職した人の9割はやっぱり建設業にいってるんですよね。そうしたなかで実際に可能なのは(要求される)技術水準がほどほどのところ、例えば事務職ですけど、事務職には雇用が無いんです。

構造改革というと守旧派の利権だとか腐敗を叩き潰そう、ここはみんな合意してるんだと思うんですけど、それがなし崩し的にアメリカ型の弱肉強食にしなきゃいけないと思っている。 ヨーロッパの仕組み、オランダだけじゃなくて他の国もみんなそうなんですけど、仕事を分け合うっていうああいう仕組みも持続可能なシステムの一つなんですね。どっちがいいのかっていうのは国民が選択しなきゃいけないんだと思うんですよ

久米 宏 日本で今すぐワークシェアリングやろうと思えば、できますか?
森永卓郎  日本は正社員で死ぬまで働くか、パートタイマーで低賃金になるか、この2つに1つの選択肢しか無いんです。8割ぐらいの労働時間にしてもっとゆったり働いて給料2割減ってもいいやって思ってるサラリーマンは実はすごーく多いんですが、日本ではパートタイマーを選ぶと時給が半分になっちゃう。これが最大の障害になっている。

ただこれは、みんなが我慢すればいいと思うんです。こないだ計算してみたんですけど、日本の正社員のサラリーマンが10%賃金を切り下げればパートタイマーの時給を正社員と同じにして、しかもパートタイマーぜんぶに社会保障を適用するというのが国全体としてやれば可能なんです。オランダと同じ仕組みが採れるんですよ。だから政・労・使で思い切ってやるぞ、オランダ型でやるっていう選択肢を採れば、けして不可能な話ではないと思いますけどね

渡辺真理 10%我慢というと大きく聞こえますけど、今10%以上にサービス残業してたりしますもんね
森永卓郎 ああ、そうそうそうそうそう! だからね、もっと簡単な手段というのは、(サービス残業というのは)違法行為をしているわけですから、サービス残業を命令している企業の経営者をみんな逮捕するんですよ
久米 宏 (笑)
森永卓郎 そうするとうるさい経営者がいなくなって会社も活性化するし。それから有給休暇だって18日与えられているのに9日しかとってないからみんな休む、と。フランスなんか5週間バカンスとってるんですよ。 構造改革の痛みを耐えた後にみんな5週間のバカンスをとってるぞって言ったら、なんか明るい展望開けてくるじゃないですか。久米さんだって毎年1カ月ぐらい休んでて
久米 宏 3週間(笑)
渡辺真理 長〜い。長〜いんですよ
久米 宏 森永さんに話聞いてたら、オランダの人たちの賃金って日本より相当低いんですって
渡辺真理 年収としてですね
久米 宏 そう。で、モニクさん(特集Vに登場した人)も週2日半しか働いてないんですけど、あのお宅、見ました? 緑したたる庭!
渡辺真理 広くてねえ
久米 宏 部屋も広くて。もう、そっちのほうが根本的に疑問感じるんですけど
渡辺真理 豊かですよねえ
久米 宏 なんでああなの? 一生懸命働いて日本はこうで、むこうはワークシェアリングしてああなの?
渡辺真理 (日本人は)仕事がないと、って強迫観念にとらわれすぎって気がしますけどね
(各党の雇用対策を一覧表で紹介)
久米 宏 なーんで賃金少ないのに暮らしぶりは豊かなんだろうなあ。僕、そっちのほうが気になっちゃったね、雇用対策よりも。根本的問題ですよ、そっちが
渡辺真理 考え方から何から

 (森永氏の前半の発言部分は適宜語順を変え、言葉を省略・追加してある)

 森永氏のコメントは久米&真理嬢に冷たくあしらわれることが多いのだが、この日は真理嬢からツボを押さえたフォロー(サービス残業)が入り、森永氏大感激。

 なお、「政・労・使で思い切ってやれば」云々の森永氏の発言があるが、今年3月末、政府・日経連・連合による「ワークシェアリングに関する政労使合意」が発表されている。

 ・ ワークシェアリングに関する政労使合意 (02.3/29、厚労省・日経連・連合、厚労省
 ・ 政労使合意に関する連合事務局長の談話 (02.3/29、日本労働組合総連合会




 私見。
 ワークシェアリングの導入には賃下げが前提になるかのような森永氏のコメントには問題があるが、(真理嬢のフォローに助けられて)サービス残業の問題にも言及しているので功罪半ばす、というところか。

 サービス残業当たり前という現状で(労使関係が不健全なままで)ワークシェアリング導入なんてしたら、賃金切下げ&使い捨て労働者(待遇・社会保障は改善されぬまま)の増大ばかりが進み、喜ぶのは企業(雇用側)のみとなるのは必至。
 不当・違法な労働環境を改善せぬまま“政労使合意によるワークシェアリング”へという流れは、政財官の癒着構造(公共事業・特殊法人の私物化、汚職、天下り、等々)を放置したまま企業優遇型の増税(消費税の税率アップ等)を画策しているのと同じ構造。

 政財界主導の日本式ワークシェアリングは、インフレ・ターゲット論以上に胡散臭い。

 ・ ワークシェアリングで賃下げなの?労働者、雇用問題FAQ共産党
 ・ 危険な財界ワークシェアリング論労働時間短縮研究所


 余談。
 産業構造の転換とサービス残業(違法行為)とは本来別の問題だが、興味深いヒントではある。 久米宏がこだわってみせた「根本的問題」は、ニュースショーでは仄めかすのが精一杯なんだろうなあ。

(2002-07-17記) 



2008-12-22:追記

サイト構成が変わってリンク切れになっていたので、ワークシェアリングで賃下げなの?労働者、雇用問題FAQのリンクを修正した。

リンク切れに気づいたきっかけは、はてなブックマーク - navixのブックマーク - 2008年12月20日

ついでにリンクを追加しておく。2008年12月の「今」。

 共産党の志位委員長が24日、党本部でトヨタ自動車幹部と会談し、解雇の中止・撤回と雇用維持を要請する。

 同党の企業への「直談判」はキヤノン(7月)、いすゞ自動車(11月)に続き、今年3回目。18日には経団連幹部とも初めて会談している。今回は、トヨタ側が出向くと回答し、党本部で行う異例の形となった。トヨタ側は古橋衛専務らが出席する。

 トヨタは、来春までに派遣労働者ら約4千人を削減する計画を発表している。共産党には派遣労働者らから窮状を訴える電子メールが殺到しており、「直談判をしてでも企業に雇用維持の社会的責任を果たさせたい」(党広報部)としている。

asahi.com(朝日新聞社):共産・志位氏、トヨタ幹部と会談へ 雇用維持を要請 - 政治



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