2003-12-14 | 作成 |
2003-12-30 | 「自衛官の任務・宣誓」の箇所に小池清彦氏の要望書を引用&追記 |
2003-12-14 発言採録&私見 |
9日の「とくダネ!」@CXに出演した小川和久氏(軍事アナリスト)の発言は大変興味深いものであった。書きとめておく。語録という形で採録しようかとも思ったのだが、冗長になるので要約し、ブロックごとに私見を入れる形とした。 ※ 一部、関連する発言を一箇所に纏めてある。正確な「発言記録」ではない。
●武装した自衛隊を現地はどう受けとめるか?
小倉智昭 「日本の支援は歓迎だが軍隊が来るなら追い返す」というサマワの住民の声が報じられている。武装した自衛隊が行ったら現地ではどう受けとめられるか?
小川 日本の報道は若干偏っている。自衛隊派遣は悪いという思いが国民的にあるから。自衛隊の派遣は民間主導の復興支援に至るまでの、骨折をした後の添え木やギプスのような役割(*1)。戦場じゃなくても危険なわけですからね、秩序がないから。 「日本の報道の偏り」やイラク側が望む理想的な援助の形、「日本の議論」に思想が欠けていることなどいっぺんに多数の事柄を挙げて質問をはぐらかしている。TVで見て(聞いて)いると質問が何であったのか曖昧になってしまうが、文字に起こして読んでみると、小川氏が、現在の派遣計画では自衛隊が現地の反感を買うのは避けられないと暗に認めていることがわかる。 「戦場じゃなくても危険なわけですからね、秩序がないから」というのは疑問。イラク全土はいまだに「戦闘地域」であり「戦場」であることは米軍も認めている。イラクでは、イラク人でさえ軍隊から逃げ出している(*3)。
「テロとの戦い」というブッシュの言い分に丸乗りしている点も賛成できない。もっともこれは小川氏の思想・立場の表明だから異を唱えても平行線だが。
(*1)
「自衛隊は添え木・不可欠の10%」論は毎日掲載の論考でも展開している。
・ 不可欠な「最初の10%」−−小川和久、国際政治・軍事アナリスト (12/8、毎日)
(*2)
日本には思想がない、理論構築が必要というのは小川氏の持論。 イージス艦派遣をめぐる論議を受け、従来の国対国の戦争を前提とした集団的自衛権解釈の限界を指摘する声もある。軍事アナリストの小川和久氏は「集団的自衛権の問題とは切り離し、世界平和のために行う国際共同行動として理論構築すべきだ」と語った。 (*3) 「給料安い」「残党怖い」…新イラク軍300人が離脱 (12/12、読売)
新国軍1期生約700人中約300人が退職希望って、ほぼ半数じゃねえか。
●武装について
小倉 今回持って行く自動小銃と機関銃は、自衛隊が通常持っているものか? 小川 世界の軍隊が通常持っているもの、最低限の装備。警察のピストル・警棒と同じ位置付け。重装備でもなんでもない。あれを重装備だって言ったら日本人は民主主義の国の国民じゃないと言われる。税金を払って自衛隊を維持してて、自衛隊がどのレベルの物を持っているかを知らないんだから。大笑いされちゃいます。 小倉 無反動砲と対戦車用弾は? 小川 これも基本的な装備。私は15歳で自衛隊行って、15歳からああいった物(対戦車ロケット、当時はバズーカ)を使ってきている。イラクでアメリカ軍が攻撃されてるRPG−7と同じ位置付けの物。 (カンボジアPKOでの自衛隊の装備の紹介に続き、韓国軍の装備の紹介。今回韓国軍は個々が持つ最小限の武器しか携帯しない。ナシリヤの米軍基地内での活動のため米軍に警備してもらっており、武器を携帯せずに作業している……というレポーターの解説に対して) 小川 いや、韓国軍の医療支援部隊は米軍の基地内で活動しているが、部隊装備火器としては持ってるんですよ、これぐらい。飛行機に乗るときには持ってないが武器は別に送る。だからあれ(韓国軍の出発時の映像)に映ってないから持ってないなんて言ったら誤報になりますよ。 (興奮気味にスタジオのモデルガンと資料Vを交互に指差しながら。) 小倉 これが最低限必要な装備? 小川 戦車だとかなんだとか、ほんとの重装備を持って行ってるのはアメリカとイギリスだけ。他の国が持って行ってる装備と比べれば平均的なものです。 国民は納税者として自衛隊のあり方・装備にもっと関心をもつべきである、というのはずっと以前からの小川氏の主張であり、正論だと思う。しかし、そのことと、今回の自衛隊の装備をどう見るかは別問題である。マスコミの「重武装」という報道が気に入らないようだが、無反動砲や対戦車弾を携帯すればこれはまぎれもない重武装であろう。自衛隊でも世界の軍隊でも当たり前の装備であるということと、平和憲法を掲げる日本の「軍隊」がそれらを装備して海外に派遣されることとはまったく次元の違う話であり、論点をすりかえる詭弁だ。 民主主義の国の国民として笑われるとすれば、自国の軍隊の装備について知らないことなどではなく、「知る権利」を行使した納税者に対して防衛庁が思想調査をしていたことであろう。
・ 防衛庁の情報公開請求者リスト「まるで思想調査」 (2002.5/28、毎日:メディア規制法案)
●アルカイダの「警告」について
小川 自衛隊を派遣しなければ東京はターゲットにならないのか。世界第2の経済大国ってだけでも目標になりうる。世界中に日本人ビジネスマン、観光客がいる。それが攻撃されないという保証は誰がするのか。 よく聞く論法だがこれも無茶である。自衛隊を派遣した場合としなかった場合とでは、日本人が「テロ」の標的になる可能性は桁違いだろうに。(米軍への協力を渋っているとタイミングよくその国で「テロ」が起こり、結果的に一挙にアメリカ追従に傾くという不可解な現象が世界各地で起こっているが、それについてはここでは棚に上げる。)
●自衛官の任務・宣誓について
コメンテーターの室井佑月が、子供がぐずるような、半べそのような喋り方で「イラクの皆さんの生活を立て直しに行くのにわかってもらえなくて、いきなり攻撃されたらこちら側も無抵抗でいるわけにはいかないし、ああいうもの(自衛隊の装備)を見せられたら、普通の装備だって言われても、なんかグチャグチャになっちゃって、それでやっぱりなんかこう、命を落とす人とかいたらやっぱり嫌だなあと思います」と発言したことに対して 小川 ただ、もう一つ、僕らはおさえなくちゃいけない。僕らはなんで税金で自衛隊を維持してんのかってことですよ。自衛隊は他の組織ではできない危険な任務の場合に使うための組織なんですよ。だから自衛官ってのは入った時、宣誓するわけ、誓いをね。だから、そのことははっきりしてます。 自衛隊の任務は「日本国民を守ること」ではなかったのか。警察官や消防隊員と同様、危険な任務に就くことは当然承知の上だろうが、しかし自衛官は宣誓する時、「重武装で日本の国防とは直接関係のない異国の戦場に派遣されることもある」と承知していたのか? 話が違うと思っている自衛官もかなりいるのではなかろうか。 追記 (12-30)
小池清彦氏(元防衛庁教育訓練局長、現・新潟県加茂市長)は「イラク派遣は自衛隊員にとって契約違反」と明言している。 元自衛官である小川氏が「自衛官の宣誓」についていい加減な発言をするはずがないと思って控えめな感想を記すにとどめておいたのだが。やはり、契約違反なのだな。 8 自衛隊の本務は、祖国日本の防衛であります。自衛隊員は、我が国の領土が侵略された場合には、命をかけて国を守る決意で入隊し、訓練に励んでいる人達でありますが、イラクで命を危険にさらすことを決意して入隊して来た人達ではないのであります。「国から給料を貰っているのだから、イラクへでもどこへでも行って命を落とせ」とか、「事に臨んでは危険をかえりみない職業だから、どこへでも行って命を落とせ」ということにはならないのであります。自衛隊員の募集ポスターやパンフレットには、「希望に満ちた立派な職場だ」とのみ書いてあるのであって、「イラクへ行って生命を危険にさらせ」とは書いてないのであります。 12 重ねて申し上げますが、自衛隊員は、日本国憲法の下で祖国防衛のために自衛隊に入隊して来た人達であって、イラクを始め世界のゲリラ戦の戦場に赴くために入隊して来た人達ではありません。それなのに「国益」の二文字を以て、外国のゲリラ戦の戦場で、自衛隊員の命を危険にさらし、命を犠牲にすることを強いることは、憲法違反の行為であることはもとより、政府の契約違反行為であり、甚だしい人権侵害であります。国民一人ひとりの幸福を離れて真の「国益」はありません。 ・ 国を亡ぼし、国民を不幸にする自衛隊のイラク派兵反対 (11/22、国民連合)
小池氏の講演録(要旨)。
・ 自衛隊のイラク派兵について (山岸健一氏のOPINION)
朝日新聞03年11月30日朝刊に掲載された小池氏の談話「隊員にとって契約違反」が転載されている。
●憲法との関係について
小倉 現憲法内での自衛隊の派遣は、それほど無理はないとお考えですか
小川 私は専門家の端くれとして一つの考え方を前々から提示してるんですが、いわゆる本格的な近代国家の軍事組織がぶつかるような武力行使に当たる場面は、それに相応しい編成と装備がある。あるいは対テロ作戦でもあるレベルを超えたもの、これは線を引けるところがある。それを超えるものに対してはどういう立場であっても今の憲法では違反になります。 自衛隊をPKFの本体業務に参加させて国際貢献すべきであるとか、法整備を進め自衛隊の違憲状態を解消すべしというのは小川氏の従来からの持論だが、ここでは一挙に飛躍している。「自衛隊出すべし、憲法に整合性がないのは政治家の責任」とはあまりに乱暴である。こんな論法がまかり通れば、「過去の政治家たちの怠慢」を理由に憲法も法律も棚上げして好き勝手に軍隊を使えるなんてことになりかねない。憲法を持ち出すなら、憲法を尊重する気があるのなら、「自衛隊は出せない、文句があるなら憲法を整合性あるものに変えてこなかった政治家たちに言え」となるのが当然の論理であるはずだ。 もう一つ、9日朝の時点で自説の根拠として憲法の前文を引き合いに出していることも目を引く。自衛隊派遣「基本計画」を閣議決定した後の会見で小泉首相は憲法の前文を持ち出しているが、小川氏は小泉の“憲法前文の利用”を半日先取りしていたことになる。 小泉の断章取義(*4)は法学者らの批判を浴びたが、あのレトリックはもしかすると小川氏が小泉に与えた“知恵”なのかも。小川氏は先月、小泉と会談している(*5)。
・ 自衛隊派遣へ基本計画決定 首相、憲法の理念に合致 (12/10、共同:イラク派遣問題)
(*4)
「【断章取義】 詩文の一部だけを切り離して、自分に都合よく解釈して使うこと。断章。」(三省堂『大辞林 第二版』)
(*5) 自衛隊イラク派遣 小泉首相「有意義な仕事」 (11/13、毎日)
「小泉純一郎首相は12日、治安の悪化が懸念されるイラク情勢について、軍事アナリストの小川和久氏を官邸に招いて意見を聞いた。会談後、首相は『困難な状況だけに、極めて有意義な仕事だと改めて認識した』と記者団に語り、自衛隊や民間人による人的支援の重要性を改めて強調した」
* * *
TVで見かける軍事評論家はタカ派体質剥き出しの与党べったりだったり逆に反米意識が強過ぎたり単なる武器ヲタクだったりするが、小川氏は穏やかな語り口で話の中身も理知的な人であった。が、9・11の頃から急速にコワモテ的というか、親米的立場に軸足がズレた印象がある。上で小川氏の発言に逐条的にツッコミを入れたが、湾岸戦争の頃はこんなに乱暴な論理・論法を口にする人ではなかった。時の総理に招かれて意見を求められるほどに社会的ステータスが上がったためなのか、内外の情勢が緊迫度を増しているためなのか。いろいろと考えさせられるが、考えるほどに陰鬱な気分になる。 |