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2001-04-06 “ITな棋士たち from 北朝鮮”(ニュースステーション) | |||||||||||||||||
5日のNステ“ITな棋士たち from 北朝鮮”は面白いレポートではあったが、いろいろ疑問・不満も残った。メリハリをつけるために仕方ないのだろうが、多少予備知識のある者から見るとあざとい演出が目についてしまって。 放送前日に流れた予告VやWEBページ告知での「初めて北朝鮮チームが来た」云々は、本編でも補足されずじまい。昨年の大会に言及する説明が一切無く、むしろ逆に北朝鮮チーム(KCC)が大会に参加するのは今回が初めてという誤った印象を与える作りとなっていた。3度目(*3)の挑戦で本戦3位入賞は十分に凄い。正確に伝えるべきである。
久米宏が何度か「打つ」と言っていたが、「打つ」のは囲碁。将棋は「指す」ものである。「打つ」のは持ち駒を盤面におろす時のみ。本編のナレーションでも同様の誤用があった。
KCCにスポットを当てた特集だから仕方ないとはいえ、KCCと東大チーム以外の参加者をまったく紹介しなかったのは残念。
現在の将棋ソフトの実力や如何に、ということで中倉彰子女流1級と「東大将棋」(IS将棋の市販版)の対戦場面が挿入されていた。“棋界の美人姉妹”(の姉)を起用するとはいかにもTV的だが、この人選やルール(25分切れ負け)は疑問(*)。
一般の視聴者は将棋の世界の「女流プロ」の地位・実力など知らない。将棋ソフトの実力を視聴者に示すのが眼目なら「プロ棋士」に相手をしてもらうべきだろう。で、プロがコテンパンに叩いた上で「最近のコンピュータは筋がいい。アマ○段ぐらいの実力はある」と笑顔で講評する、となるのが定跡。取材チームは「プロ」の肩書きを持つ棋士をコンピュータが負かす場面を撮りたかったんだろうか。(←邪推) 大会で優勝するとソフトの売上げが7〜8倍になる、というレポートは意外だった。ここ数年で将棋ソフトのマーケット事情は大きく様変わりしたらしい。将棋ソフトというのは強ければ売れるというものではないと以前聞いたことがあるのだが。(トップクラスの将棋ソフトはもう何年も前から有段者の実力をつけている(*)。 将棋ファンの大半は初段以下。最強レベルに設定すると一般のファンはなかなか勝てない。すでに自分より強いソフトを持っていれば一般の人は新たにソフトを購入しない。より強いソフトを求めて次々買うのはよほどのマニアだ、という話だった。) 大会を主宰するCSA(コンピュータ将棋協会)の戦前予想ではKCC将棋の優勝確率は8番目。協会理事は「(KCCが優勝するのは)無理でしょう。北朝鮮の人は(日本)将棋をわかってない」とコメント。北朝鮮には(日本)将棋の専門家がおらず、KCCチームは日本から送られた文献のみでソフト開発を行なっていると紹介。が、予想を裏切る強さでKCC将棋は2次予選を1位で突破する。ここでナレーション。「KCCの勝因は大会前に日本将棋を徹底的に分析したことにある」「100万手のデータを入力して強化した」云々。 ここに言う「日本将棋を徹底的に分析」というのは、定跡書を読破して日本将棋の研究を究めたということではないだろう。ありていに言えばその内容は、昨年対戦した競合(強豪)ソフトや市販版ソフトの解析・アルゴリズム研究(対策)であろう。ここがソフト開発&対戦の醍醐味だと私なんかは思うのだがレポートでは言及せず。予備知識が無くとも勘のいい人なら、IS将棋(東大将棋)との対戦直前にKCC開発者がソフトの微調整をしている場面を見て、コンピュータ同士の対戦は“棋理の追究”に基づくアルゴリズム勝負であると同時に、思考ルーチンとは別次元での駆け引き(将棋業界風に言うなら“相手の顔を見て”の作戦・指し手選択)も絡む戦いであることに気づいただろうが。 「100万手のデータ」というのはよくわからない。膨大な量のデータだとするとそれをどこから入手したのか、説明がほしかった(*)。 またこのデータというのは定跡データだろうが、大会参加ソフトは程度の差こそあれ対コンピュータ用にチューンナップされているはず。「定跡」を保持していても対コンピュータ戦ではあまり効果はないと思うんだが。それに定跡の知識が勝敗に直結しないのは人間もコンピュータも同じはずだし(*)。 これを「勝因」として挙げたのは、KCC開発者の言をそのまま伝えるナレーションだったのだろうか。 対戦を終えた後、IS将棋開発チームとKCC開発者がお互いのソフトを交換するシーンが流れた。非常に印象的であった。 特集Vの後、久米宏はKCC将棋がIS将棋戦で指した▽5七角成について、「ちょっと将棋をやったことのある人なら当然(飛車を取る)2八角成と打つ」とコメントした(「打つ」は上で書いたように誤用)。強くなっているとはいえ将棋ソフトは人間では考えられないような凡手を指すと言いたかったらしいが、これは変。第一に、コンピュータの疑問手についてならばIS将棋の直前手▲1九角にコメントすべきだし、第二に、私は“ちょっと将棋をやったことがある”程度のヘボだが、あの局面では▽5七角成もアリだと思う。「当然2八角成」と見るのは相当強い人か、飛車が大好きな初心者だろう(笑)(*2)。 久米宏は上の説明の途中できょとんとしている渡辺真理嬢におどけて「わかる?」と聞いていたが、前フリでのおかしな説明ぶりからすると、実は久米宏自身も将棋はさっぱりなのかも。
冒頭に書いたようにこの特集は、北朝鮮のコンピュータ・エリートを結集したKCCの開発力がいかに凄いかを強調しようとするあまり作り方にかなり無理があった。
(*)
11日の補足を参照されたい。
(*2)
補足(IS将棋vsKCC将棋)を参照されたい。(2004-11-09)
(*3)
「2度目の参加で3位」と書いていたのだがKCCチームの初参加は1999年だった。「3度目」に訂正しておく。なお、KCCチームは2001年以降、本戦上位の常連となっている。
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参照リンク |
2001-04-11 補足 |
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2004-11-09 補足(IS将棋vsKCC将棋) |
先ほどWEBサーフしていて、IS将棋公式サイトに2001年CSA大会の自戦記(優勝記)が掲載されているのに気づいた。上で言及した(Nステで久米宏が紹介した)「IS将棋vsKCC将棋」戦の問題の局面図と解説がある。やはり▲1九角に対しては▽5七角成もアリだよなあ。最善手は▽2八角成なのかもしれないが。 |